新釜石鉱山軌道


Vol.1




撮影日=昭和60年 2月 8日(金)







釜石で朝を迎え、新日鐵釜石製鐵所で少し撮影をした後、陸中大橋にやって来ました。
駅から歩いて20分くらいのところに、軌道を保有する釜石鉱山があります。

陸中大橋駅からの道すじ、何処の事務所を訪ね、どのような交渉をしたのか、サッパリ覚えていません。
が、無事に許可を得てヘルメットを借用し、鉱山施設内へと立ち入りました。
もしかすると案内人の方も同行していたかも知れません。

当時の鉱山では、事務所を訪ねて撮影希望の旨を伝えれば、たいていは許可がもらえました。
逆にガードの固い鉱山の方が珍しかったと思います。
のんびりした、いい時代でしたね。











採鉱所ヤードに進入した鉱石列車。










新釜石鉱山軌道で主力として活躍していたのは、15トンTLでした。
若番は昭和10年代製とのことですが、さほど旧さを感じません。
恐らく、度重なる車体更新が施されたのでしょう。

他に小柄な6トンTLも居ました。
6トン機は、坑道最深部の日峰鉱床で採掘される銅鉱石を運んでいたそうです。
牽引していたのは5tグランビー鉱車7両とのこと。
非常に興味深い列車ですが、見ることは出来ませんでした。
6トン機で稼働していたのを確認できたのは1両だけです。
それも単機回送(*_*;
5tグランビー鉱車も見当たりませんでした。
もしかすると、坑内だけの列車かも知れません。


















新釜石鉱山軌道
車両カタログ







6トンTL

E607号機、唯一稼働していた6トン機です。
間近で見ると、コンパクトなボディが可愛いです。
パンタを外されてしまったE608。
整備中? それとも休車かな?
こちらは今にも動き出しそうなE611です。
















15トンTL

製造が番号順だと仮定すれば、最も古いであろうE151。
正面の鎧戸に歴史を感じます。
E151と同形ながら、連結器周辺が少し異なっていたE152です。
E151~E153のサイドナンバーには「羽」が付いていました。
追加装備されたエアタンクが物々しいE153です。
機器箱に付いた東芝のロゴが印象的だったE155です。
E151~E153と同形ですが、ナンバーの羽はありませんでした。
極端に低い運転台だったE156。
用途は不明ですが、他のTLとは明らかに形状が異なります。
異彩を放っていたE159はナンバーが切文字でした。
E156と同じく、日鉄鉱業の社紋が付いています。
4桁ナンバーのE1511はE151~E155ど同形でした。
なぜ飛び番号になっているのかは不明です。


15トンTLは、東芝、日立、日輸製とのことですが、内訳などの詳細は不明です。





個性派 E153のアングル

新釜石の主力機E151~E155の中で、最も印象的だったのがE153でした。
と言っても、エアタンクが目立っていただけですが(苦笑)
他のTLは手ブレーキですが、E153はエアブレーキだったのか…(?_?)

詳しいことは分かりません。

鉱石列車を牽く姿。
タンクがふたつ重なっているから余計に目立つ…
エアタンクだけではなく、なんだか色々と載っています。













その他

12tグランビー鉱車です。
側面の形状は複数種類ありました。
かつて使用していた5t鉱車を改造したと思われる人車。
閉所恐怖症には絶対に耐えられないでしょうね…
御用済み?となった5t鉱車たち。
人車はこのタイプから改造されたのでしょう。
雪に埋もれた廃車群。
6トンTLでしょうか、寂しい光景でした。


鉱車は前述の他に9t、6t、4t、3t、1tが存在していたそうです。








釜石鉱山では、主に鉄鉱石、銅鉱石、鉄銅鉱石を出鉱していました。
現在も操業している「仙人秘水」のHPによると、採掘現場は南北6km、東西2km、海抜150m~980mにも及び、
坑道の総延長は1000km以上もあったとされています。
他の鉱山と同様、いくつもの坑道が張り巡らされていました。
次の画像は「仙人秘水」HPより転載したものです。






メインの運搬軌道があったのは350mレベルです。
この軌道は架線が外されたものの現在も存在しており、BLが稼働していると聞きました。


鉱山自体は昔からの釜石鉱山ですが、訪問当時の大橋採鉱所は「新釜石鉱業所」と称されていました。
よって「新釜石鉱山軌道」としておりますが、その経緯について少し触れておきましょう。

歴史をたどると、発端は安政4年にまで遡りますので、その辺は割愛して。
昭和14年、釜石鉱山を所有していた日本製鐵が分社して日鉄鉱業が発足し、
それまでの釜石鉱山釜石鉱業所から、日鉄鉱業釜石鉱業所となっています。
その後、昭和54年には日鉄鉱業出資の釜石鉱山へ引き継がれて、釜石鉱山(株)新釜石鉱業所となりました。

従来通りの「釜石鉱山軌道」でも問題はないと思うのですが、
ネット検索すると大橋~釜石の釜石鉱山鉄道ばかりがヒットしてしまいます。
そんな理由もあり、明確に区別するために「新釜石鉱山軌道」といたしました。















人車の狭さが良く分かりますね~









鉱石列車は、割かし頻繁に出入りしていました。
ダイヤがあったのか、それとも採掘の具合によって臨機応変に運行していたのか、
今となって走る由もありません。

鉱石列車は12両の12tグランビー鉱車、そして坑道側に人車1両が連結されていました。
両端では機回しが行われていたため、運行方向により機関車の向きも異なります。
見た限りでは、全機とも運転台が採鉱所側を向いていました。

採鉱所への進入と退出は一方通行になっていました。
鉱石を積んだ列車は、メイン坑道(通洞坑)から出てくると国道283号をオーバークロスします。
橋を渡ると約50mのトンネルを経て、採鉱所構内へと進入してゆきました。
空車は採鉱所ヤードの途中から分岐し、左に急カーブする違うルートを通ります。
こちらは構内を外れると、50m程先にある別の坑口(大仙坑口)から坑道へと入ってゆきました。








軌道路線図です。
この図で確認できるのは、350mレベルの主な軌道だけ。
枝分かれする軌道は、恐らく無数にあるものと思われます。
撮影したのは図の左端、選鉱場と記されたエリアだけです。
拡大コピーなので判読しづらいですが、左の路線には大仙坑道(空車線)、大仙坑口、
350m坑口、(実車線)と記されています。
6トンTLが7両の5t鉱車を牽いていたという日峰鉱床は右端です。














通洞坑口を出て採鉱所に接近する鉱石列車





こちらが実車線、進入ルートです。
採鉱所ヤードの鉱山側には50m程のトンネルがあり、抜けた所がここ。
列車が出てきたのは通洞坑口で、渡っている橋は国道283号に架かっています。
国道からトロッコは丸見えだったんですね~
その割には、この軌道の写真は出回っていません。

坑口から出てきた列車は、橋の手前で一旦停車します。
運転士は小屋の横にあるスイッチ盤を操作し、再び発車しました。
構内の進入線路を選択していたのでしょうか?





坑道から出てきた鉱石列車。
停止して何やら操作しています。
約50mのトンネルを抜けると、採鉱所ヤードに入ってゆきます。











採鉱所ヤードは到着線が二線、空車が通る引き上げ線が一線に分かれていました。
到着線の有効長は長く、二列車ずつが停車できるくらいの余裕があります。
前列車が作業中に到着した後続列車は、降ろし線が空くまでヤードで待機します。
三線を合わせると、最大六列車が待機できるスペースがありました。
ただ、実際に待機させていたのは両端の線だけで、中央の線は空けられていました。









トンネルを抜け、ヤードに進入します。
鉱石を満載していますね。
左カーブの先にホッパーがあります。










新釜石鉱山軌道のTLは、無線遠隔操作が可能でした。
かつては運転士と助手がペアとなり、積込と降ろし作業をしていたそうです。
しかし、輸送量アップのため鉱車を大型化した際、列車の全長が65mになり、
助手の目視安全確認を運転士へ伝達することが困難になりました。
そこでTLに無線操縦ができる改造を施し、運転士のみで作業するようになったとのことです。
この辺は現場で聞いた内容がうろ覚えなので、資料に記載されていた手順も参考にしました。
坑内と採鉱所での作業は次の通りです。



【坑内積込場】

■積込場手前の交換線に到着後、先頭のTLを解放する。
■交換線を利用して機回し、TLをそれまでの最後尾に連結する。
■運転士はTLを降り、最後尾へと歩いてゆく。
■運転士が携帯無線機でTLを操作し、交換線先の積込場へと後退させる。
■積込場では鉱車1両ごとに停止させ、機器を操作して鉱石を積込む。
全鉱車の積込を完了すると、運転士はTLに乗って出発する。





【採鉱所ホッパー】

■採鉱所ヤードで停止後、信号現示に従ってホッパー線に進入する。
■ホッパー前で停止、運転士は下車して携帯無線機にてTLを操作する。
■ダンプガイドによりグランビー鉱車が転倒し、鉱石がポケットへ落下するのを目視確認。
■全鉱車の降ろし作業を終えると、最前部のTLを解放する。
■機回しして、それまでの最後尾にTLを連結し、折り返し出発する。






注意を促す立て看板





ホッパー付近には、このような看板が立っていました。
前述の作業をするため、TLに運転士が居なくても列車が動くので注意せよ、ということですね。












これは…(?_?)






降ろし作業を終えた空車列車が推進でヤードに戻り、TLが解放されたところです。
通常はホッパーで機回しし、カーブの向こうからTLが牽引して来るのですが…
なぜか機回しをせず、ここまで推進して来たものと思われます。
う~む… 謎です。

もしかすると機関車交換?
ここでお昼休みになりましたので、午前と午後で牽引機を交替させたのかも知れません。
あくまでも推測ですが…








ランチタイム♪






ヤードには空車と積車が二列車ずつ停車しています。
全ての作業が停まり、お昼休みとなりました。










テール・トゥ・ノーズ













ホッパーです。
ここにも空車列車が停まっていました。
ヤード全景です。
TLが分岐してゆく方向が空車引き上げ線です。
TLたちはパンタを降ろして待機していました。










お昼休みに何か食べたのか?
空腹のまま撮影&観察を続けていたのか…??
全く覚えていません…(*_*;











(^^♪






誰かに撮ってもらったのかな、それとも三脚&セルフタイマー?
ヘルメット似合わねー!

それにしても軽装ですね。
カメラバッグが小さい…(゜_゜)











午後の部開始!







お昼休みが終わると、列車たちは再び動き始めました。
静まり返っていた構内が賑わいます。














続々と…







採鉱所ヤードに活気が戻りました。
鉱石を満載した列車が次々に到着します。
















ヤマに向かって






鉱石を降ろすと、直ちに採掘場に向けて折り返してゆきます。
この繰り返しが、日に何度行われていたのでしょうか。

そのあたりのお話はVol.2で!
引き続きご覧ください。














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参考文献=村島一郎氏著「釜石鉱山における採鉱の近代化と主要運搬坑道の列車遠隔操作について」
早稲田大学 鉄道研究会 専用線研究グループ著「専用線研究」


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