THEトロッコ


2013 神隠しの黒部



Vol,4 黒部の大腸







『黒部』という名の由来は、アイヌ語の『クルベツ』だという説がある。
『クルベツ』とは『魔の川』 という意味があるそうだ。
その昔、黒部の山奥はそれだけ恐れられていたのかもしれない。
実際に近代まで人跡未踏の地だったのだから。
人々を寄せつけない厳しい自然ではあったが、同時に水力電源開発に適した環境でもあった。
その環境を求め、人々は果敢に深山へ挑んだ。
大正時代、東洋アルミナムという会社が欅平と仙人谷を結ぶ『水平歩道』を開通させた。
文字通り上り下りの少ない『水平』な道である。
しかし、断崖絶壁をくり抜いた道、崖にへばり付いた木製の渡しが連続し、
半端じゃなく危険極まりないシチュエーション。
道幅は広くて1m、ヨロッとしたら一気に谷底へ真っ逆さまだ。
仙人谷ダムが着工する以前、人々は調査や物資運搬のためにこの道を歩いて現地へ赴いていた。
歩荷(ぼっか)と呼ばれる運搬人夫、転落事故は日常的に起きていたという。
多くの犠牲者を出しながらも高熱岩盤を貫き、仙人谷ダム、黒部川第三発電所は完成した。

『世紀の大プロジェクト』とも言われた黒部川第四発電所の建設も、想像を絶する難工事であった。
その模様は映画『黒部の太陽』で描かれている。
石原裕次郎と三船敏郎が共作し、当時の五社協定を吹き飛ばす興行を遂げた。
この映画を見ても分かるが、黒四建設も黒三と同様に隧道工事が最大の難関だった。
黒三では高熱岩盤、黒四では破砕帯が大きく立ちはだかったのだ。
しかし、ここでもマンパワーが勝った。
ひとことに『水力発電』と言っても、計り知れないくらい奥が深い。
ボクらは軌道目当てで来たものの、やはりこの経緯について無関心ではいられなかった。
先人達が切り開いた道をトロッコで移動する。
ただそれだけでもありがたく、手を合わせたい気分になってしまった。


仙人谷で10分程停車した列車は再び走り始め、僅か5分足らずで終点に到着。
そこは巨大な地下施設を擁する、黒部川第四発電所である。
列車を降りた途端、幕を引くようにモチベーションは一気に下降。
最大の目的であった上部軌道の乗車体験が終わってしまったのだから仕方あるまい。
あとは案内の方に身を委ね、言われるがままに動くだけだ。
発電所見学の後、インクラインで作廊谷へ上がった。
このインクライン、2000mmくらいのブロードゲージで、25tまでの重量物も積載できるとのこと。
斜度は34°、450m程の高低差を20分かけて昇降する。
軌道の20分はアッという間だが、こちらは正直退屈した。

作廊谷からは工事用トンネルをバスで進んだ。
この辺になると夢から覚めて現実に引き戻されたかの如く、なんだかシラけた気分…。
途中、バスは停車して全員下車し、横坑を歩いてお天道様のもとへ出た。
タル沢と呼ばれる地点で、トンネル工事の際にズリ捨てに使われた坑道らしい。
ここからの眺めは美しかった。
遠くに氷河を抱いた剱岳、普通ならば山行の人たちしか見られない絶景のはず。
朝の欅平上部とは打って変わり、素直に眺めることが出来た。
そばに軌道がないのだから当然?

ここで案内人の方から参加者の一人が呼ばれ、
身体を北アルプス、黒部峡谷に見立てて位置などの説明が行われた。
何処がナニだったのかはすっかり失念。
だけど、この黒部ルートを体内消化器に例えるなら
既に口腔、咽頭、食道、胃などのオイシイ部分は上部軌道まで、
あとは小腸、大腸みたいなモノだから、さしずめ今は大腸の中間くらい?
『黒部の太陽』ならぬ『黒部の大腸』というワケだ。
再びバスで移動し、無事に黒部ダム到着。
肛門にあたるこの地で、我々は屁とともに排出された。





































仙人谷駅。
唯一の地上区間ではあるが、
全てが屋根に覆われているので『外』という気がしない。

























冬の期間は格納されている蓋で窓を覆う。
そうなれば隧道内と大して変わらないだろう。
ちょっと見てみたい気もするが…

























仙人谷を発車。
ほんの少しでも屋外トロッコの風情を感じる瞬間だ。


























黒部第四発電所前駅。
施設がリッパ過ぎてトロ鉄撃沈…



























ここにはボクたちが求めるトロッコは無い?
答えは出せない気がする。


























見学者たちの荷物とBB72のプロフィール。



























かの有名な黒部川第四発電所心臓部だ。
いずれ観光地として公開されるような気がするのはボクだけ?



































超広軌のインクライン。
中間の交換所にさしかかる。
対向の車両には黒部ダム発の見学グループが乗っている。

























タル沢横坑からの眺望。



























坑道と山々。



























誰もが知っている黒部ダム。


























山行の人、観光客が入り混じる処だ。


























黒部湖~黒部平間のケーブルカー。
全線が地下なのは、全国でもこの路線だけだとか。



























初秋の室堂。


























室堂平の絶景とコンビニ『ますの寿司』。
(笑)

【2013年 9月19日撮影】





トロッコ趣味の醍醐味は『発見』だ。
知られざる軌道、初めて見る車両との出会い、
その瞬間の快感が、自分たちを動かしていたようにも思う。
撮影アングルについても同じだ。
こんな写真は見たことないなぁ…
という場所で思い通りのシーンを捉えた瞬間、これも気分がいい。
上部軌道にコレが当てはまるだろうか…?
山行を経て仙人谷へ赴き、見る人を唸らせるような写真が撮れるだろうか…?
答えは決して『No』ではないような気がする。
僅かながら可能性はあると思う。
現在では動力車が走るトロッコは些少だ。
昔とは違い、現在ではインターネット社会だから
何処かに魅力的なトロッコがあったとしても、
恐らくアッという間に晒されて有名になってしまうだろう。
が、しかし、本当に人目に触れないような処で
知られざるトロッコが生き続けているかも知れない。
なんだか、そんな気がしてならない…
『ひょっとしたら…』
そう思えるうちは、自分も現役のトロ鉄なのだろう。







《旅の様子はこちら ↓ で綴っています…》

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