Vol,2 ジョーブトロッコをよろしく
黒部峡谷鉄道の終点、欅平駅はトレッキングの拠点となっており、
シーズン中は列車が発着する度に大勢の乗客で賑わっている。
列車で欅平に着いた人たちは、思い思いに各コースへと足を向ける。
身軽なハイカーから重装備のキャンパーまで、人々の様相は多彩だ。
近くの猿飛峡、祖母谷温泉などへは比較的楽なコースで人気がある。
水平歩道、日電歩道を通って黒部ダム方面へ向かうルートでは、ダム建設の歴史を紐解けるだろう。
また、遠くは白馬岳を超えて栂池へと至るという、気の遠くなるような道のりもある。
皆が目標に胸を膨らませ、それぞれの目的地へ向けて出発してゆく。
そんな中、特定日に限ってだが30名程の行方不明者が出る。
そのグループは通常の客が乗れないはずの工事用列車に拉致され、隧道の中へと消えてゆくのだ。
これは黒部の"神隠し"だろうか…
ことの正体は"神隠し"ならぬ『黒部ルート見学会』である。
『黒部ルート』とは、ダムや発電所の建設、維持管理のために整備された関西電力の物資輸送システムだ。
そして、このルートのメインとなっているのが、我々の注目する上部軌道なのである。
トロ鉄ならば、誰もが昔から知っている軌道ではあるが、
全線がトンネル内、施設内の立入は厳禁であるため、シャバの世界とは縁遠い存在だった。
ボクたちがトロ鉄全盛期、当時からガードの固い軌道はいくつかあった。
戸叶鉱山、奥多摩工業、日本特殊鋼、住友金属などが代表的な処ではあるが、
これらは『THEトロッコ』の勢いと努力とコネで打破し、みごと立入撮影を果たしている。
あの頃の行動は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。
立山砂防、松本製材、屋久島を完全掌握、更に上記の難関を突破して
その上で惜しげも無く誌上に晒してしまうという荒行ぶり。
存在を知りつつも、暗~くシコシコと密かに楽しんでいた輩は
さぞかしひっくり返る思いがしたことだろう。
そんなボクたちでも乗り越えることが出来なかった壁…
それが関西電力、この上部軌道だったのである。
いや…
正確に言えば、乗り越えられなかったのではなくて
『乗り越えようとしなかった』だけなのであるが…(苦笑)
やはり全線トンネル、走るのがBLとくれば気は進まないし行動も鈍る。
同じエリアには神と仰ぐ立山砂防軌道が存在したのだから、
崇拝する立山様を差し置いて隧道BLなどに浮気は出来ないし、
そんなことをすれば、本当に神隠しに遭っていたかもしれない…
そんな訳で『THEトロッコ』に上部軌道は登場しなかったのだ。
(天の声=ただ行くのがめんどくさかっただけやろ…)
時は経ち、平成8年に上部軌道はあっさり公開された。
関西電力が、水力発電事業をアピールする一環として参加者を公募している。
逆に我々が『庭』同様に活動して来た立山砂防軌道だが、
こちらは軌道敷内、構内は一切立入禁止で自由が利かなくなってしまった。
そして、こちらは国土交通省の砂防事業の理解を求めるという趣旨で、
『体験学習会』なる企画に参加しなければ、近寄ることすら出来なくなってしまったのである。
なんとも微妙な対比だ。
自由気ままに接していた砂防軌道の会に応募するのは若干抵抗があるが、
全く未知の上部軌道を見られるチャンスとあらば食指が動いた。
応募、そして当選。
いよいよ上部軌道に接するチャンスが迫って来たのである。
そして『THEトロッコ』で暴れたボクたちコンビが、
およそ30年を隔ててトロッコ現場に復帰するのだ!
こんなレポートを見られるなんて、三国一の幸せ者だぞっ!
そしてジョーブトロッコを求め、前日に富山入りしたボクたち。
新幹線と北越急行のおかげで、昔と比べて富山は格段に近くなっていた。
まさにブラッド・ピットならぬ、『ぷらっと・ちょっと』みたいに来れちゃう。
前夜は宇奈月温泉に宿泊。
黒部峡谷鉄道、朝二番の列車で欅平駅に到着した。
ミーティングを経て再び駅に入り、関電工事列車に乗り込む。
参加者は約30名。
約10名ずつの3グループに分かれて引率されてゆく。
このグループ分けは、上部軌道での乗車客車の分担にもなっている。
後で気がついたことだが、この列車を牽引していたのは凸型のEDだった。
あーっ! しまった~! 撮り損ねた…
工事列車は欅平を出てトンネルに進入。
500mくらい進んで停止し、後退してゆく。
推進の末に停止した処が欅平下部駅であった。
一般ピープルと行動を共にしているせいか、いまひとつピンと来ない。
トロ鉄的にはエキサイトするアクセスのはずではあるが、意外と平静であった。
竪坑エレベーターは車両を運搬するので、床にはレールがある。
乗っていた客車ごと移動してくれれば盛り上がっただろうに。
エレベーターの扉が開くと、そこは上部軌道の欅平上部駅だった。
ずっと向こうに写真でした見たことのない列車が停止している。
すぐに駆け寄って観察したいのだが、団体行動ゆえにままならない。
順路に沿ってエレベーターの反対出口へ回り込むと、
そこにもBLが客車を従えた列車が停まっていた。
うぉ~っ!『Meet Jobetruck!』
(?)
これには耐えられずに少し撮影。
グループは立ち止まることなく進み、横坑を通って北アルプスが眺望できる展望スポットに案内された。
あの山が何何とか説明されるのだが、正直言って心ここにあらず。
グループ行動から逸脱して、密かに軌道の観察をしていればよかったと後悔した。
戻る時、案内人の方から許可を得て停車中のBLと客車を少し撮影。
構内のはずれで単線になった軌道は、更に奥深くへと延びていた。
この先は黒部川第三発電所まで軌道が続いているらしい。
許されることなら、観察しながら軌道を歩き進みたいものだ…
黒部ダム行きの上部軌道列車が停止している乗り場に行くと、
そこはさながら展示場か、記念撮影大会なのかという様相を呈していた。
このような雰囲気は至極苦手なので、またまた許可を得た上で構内のはずれへと観察に行く。
黒部ダム側から構内に入る手前、左に分岐する線路があった。
これは駅をバイパスし、黒部川第三発電所まで延びているそうだ。
即ち、先程もう一本の列車が停まっていた先で合流するという訳。
ボクたちのグループを担当していただいたのは畑さんという方。
ボクたちが軌道目当てだとご存知で、色々と便宜を図ってくださった。
参加者が客車に乗り込み、構内が少しスッキリしたところで列車の姿撮影。
なにしろ全てがトンネル内だから、ビシッと『走り』が撮れないのが残念だ。
さあ、ボクたちも乗り込んで出発。
いよいよ高熱隧道経由で、黒四発電所を目指すのだ。
関西電力HPに掲載されている案内地図。
『トロッコ電車』と謳っているが、 ボクらにとっては『トロッコ』ではない。 サイズの小さい地方私鉄といった感じ。 |
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小屋平駅で関電工事列車と交換。 写真だと一般の列車に見えるが、 後方には貨車と巡察用モーターカーを連結していた。 |
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欅平駅にEDR20型の重連。 ナローらしからぬ存在感と迫力がある。 |
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ゴミ運搬貨車『峡谷美人』。 無蓋車にコンテナを載せただけだが… |
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『THEトロッコ』コンビも経年劣化… すっかりオッサンだ。 |
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宇奈月からの工事列車が到着。 この編成の前3両は欅平下部行き車両で、 機関車を付け替えて直通する。 我々はこの列車に拉致監禁される。 |
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欅平下部駅に到着した列車。 先頭には凸型の電機が確認できる。 ちゃんと撮ればよかった… |
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進行方向に進むと竪坑エレベーターがある。 車両も運搬できる大きなサイズ。 |
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これが竪坑エレベーターだ。 ここから欅平上部駅まで200m上昇する。 |
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竪坑エレベーターを降りると欅平上部駅。 向こうに黒部ダム行き列車が見える。 順路はここからスイッチバックし、裏側へと進む。 |
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エレベーター裏側構内に停まっていた列車。 貨車の置いてある先は黒部川第三発電所に通じている。 |
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接近してみたら、BLと客車は連結されていなかった(笑) なんとかそれらしく撮れたけど。 |
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蓄電池機関車BB73。 10トン級のようだが、素性の知れぬBLである。 |
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我々の乗る黒部ダム行きは客車5両+貨車1両。 |
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黒部ダム側から見た構内入口。 左へそれるのは構内をバイパスする線路。 |
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まさか上部軌道に接することが出来るなんて… 30年には思ってもみなかった。 |
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発車時刻が迫って来たようだ。 高熱隧道へ突入である。 |
【つづく】
《旅の様子はこちら ↓ で綴っています…》
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つねぴょんの”撮り鉄人生”