フィリピン
ネグロス島
Negros
Philippines








ラ・カルロッタ製糖工場
La Carlota Sugar Central



撮影日=1981年 3月11日(水)






初めて訪れた国フィリピン、首都マニラで朝を迎えた。
タクシーで空港へ向かい、7:00発の国内線でネグロス島を目指す。
雑然としたマニラ空港は怪しげな雰囲気が漂っていた。
空港職員は利用客に対し、いちいちチップを要求する。
警察官から声をかけられたかと思えば、なんとベルトのバックルを買わないかと言う。
これぞ政情不安定な国なのか…と考えさせられる出来事であった。

今回の撮影ツアーでは、同行の畑さんが経験したノウハウのみが頼りであった。
「国賓待遇でサー」「なにもかも上手く段取りしてくれてサー」
南さんもボクもこの言葉を100%信用し、何の不安も抱いていなかったのである。
「手紙出しておいたからサー 空港まで迎えに来ているはずだよ」
畑さんが言うのは、前回便宜を図ってもらった政府観光局のボスのことだ。
なにしろ国賓待遇だったのだから、出迎えくらいは当然であろう。

しかし、降り立ったバコロド空港には我々を迎えるヒトは居なかった。
「きっとサー 忙しいんだよー」
と畑さんは言っていたが、ボクらの心中は穏やかではなかった。
仕方なくタクシーで政府観光局に赴く。
ここでまた衝撃が走った。
観光局が入っているはずのビルは廃屋となっていたのである。
もはや国賓待遇どころではない。

頼みの綱となった転居先の貼り紙を頼りに、再びタクシーの客となる。
やっとの思いでたどり着いた政府観光局。
かつては賓客として?招いたたはずの畑さんを前にして、
「ん?アンタ誰?」みたいなリアクションをしたボスが印象的であった(笑)

ボクたちのガイド役に指名されたのはエドウィン・ガティアという若手。
モジャモジャアタマで軽いノリ、僅かなカタコトの日本語を知っている奴だ。
我々の意思を伝え、これから先の撮影については全て彼が陣頭指揮を執る。
彼がボクたちの拠点として選んだのは、海岸沿いに建つシーブリーズホテルであった。
聞けば、バコロドでも指折りの高級リゾートホテルらしい。
ロビーからは真っ白い砂浜とエメラルドグリーンの海を望むことができる。
そんなリッチなホテルに余分な荷物を放り投げ、お昼を食べてから待望の撮影に繰り出した。


島内の移動はタクシーをチャーターした。
ポンコツの黄色いブルーバードで、滞在期間はこいつの世話になる。
最初に訪れた製糖工場は、バコロドシティから南に40km程離れたラ・カルロッタである。
その名から、スペイン統治時代から続く会社のようだ。
ガイドのガティアは非常に手際よく話を進めてくれた。
工場正面に到着するとすぐに守衛に駆け寄り、観光局ボスからのメッセージを見せる。
すると、工場内からお偉いさんと思しき方々が登場。
「よくお出でくださいました、さあどうぞ」
といった感じで歓待された。
南さん曰く、あのメッセージは
「フィリピン政府観光局のお客様ゆえ、粗相のないように…」
という内容ではないかとのこと。
確かに効果てきめんのようであった。

先ずは車庫を訪れる。
西部劇に出て来そうなボールドウィンが何両もたむろしていた。
ちょうど出庫の準備をしていたところで、機関車は勢いよく蒸気を上げている。
久しぶりに見る現役蒸気機関車、我々のテンションは上がりまくっていた。












初めて見たネグロス島の蒸気機関車





米国ボールドウィン社製のCテンダー機関車。
ラ・カルロッタには多くのボールドウィンが生きていた。
資料が無いため詳細は不明だが、10両くらいが在籍し、常に4~5両が稼働していたようである。
ゲージは3フィート、すなわち914mmだ。








ここにも近代化の波が…
機関車たちのネグラ。
燃料はバガース。サトウキビの搾りかすを乾燥させて固めたものだ。
玉ねぎ型の煙突と、フルサイズのサドルタンクが異様な5号機。














間もなく出庫する模様…










車庫内は活気に満ちていた
木漏れ陽ではないな…。
普通の蒸気機関車とは違う匂いがした













聞き慣れぬ言葉が飛び交う














屋根としての機能を果たしていたいような…








生きている蒸気機関車は良い香りがする。
なかでも石炭が燃焼する匂い、これが最も蒸機らしさを感じさせる。
しかし、初めて接したラ・カルロッタの蒸気機関車は「その匂い」がしなかった。
燃料のせいである。
ネグロス島の蒸気機関車は、サトウキビの搾りかすを燃やしていたのだ。
サトウキビから糖蜜となる汁を採ると、約二割ほどが搾りかすとして残される。
当初は水分を多く含んでおり、乾燥させるとバガースと呼ばれる原料となって、
これが燃料、紙、肥料などへと活用されるそうだ。
機関車の燃料としては、乾燥したものを圧縮、固形化している。
扱いやすさを考慮しているのだろう。
そんな燃料を使っているため、ネグロスの蒸気機関車は風変わりな芳香を漂わせる。










後方は製糖工場













さっき、ポーズをとってくれた機関士の104号機が出区した
いずれディーゼルが主力になるのだろうか…。
滑り止めの砂は、サイドタンクに載せたドラム缶に積んでいた。
巡察用か? 可愛らしいレールカー。
甘いケムリが絶えない構内。












人々の生活を蒸気機関車が支えていた









車庫から構内にかけて、ひと通り撮影し終わった頃に工場から空車の列車が出て来た。
連なるサトウキビ運搬車を押していたのは103号機。
これから畑に収穫に出るという。
ガティアがけたたましいタガログ語で機関士たちと会話する。
そして機関車の運転台へと誘われた。
どうやら撮影と添乗の交渉をしてくれたようだ。
伐採現場までは、この蒸気機関車に乗って行けることになった。








工場から出て来た空車列車、これから収穫に向かう。
バック運転。オマケに推進だから、前方の安全確認は至難の業だ。
面白い運転ポジション。
焚口戸から燃えるバガースが見える。










投炭ならぬバガース投入は、予想以上に悲惨な作業であった。
走行中は運転台に風が吹き込み、バガースの粉が舞い散るのである。
圧縮してあるとはいえ、持ち上げたりすると周辺が砕け、ところかまわず飛び散る。
それが目に入ったり、首筋から衣服の中へと侵入するのだからたまったものではない。
ただ眺めているだけのボクらだってヒーヒー言っているのだから、
実際に扱っている人はもっと大変なはずだ。
帰国後に思ったのだが、バガースは乾燥した牧草を固めたものに似ている。
焚口戸には「投入」するのではなく、「押し込む」としたほうが適当かも知れない。
焚口戸の内径よりもバガースの方が大きいため、分割して押し込んでいた。
この割り入れる作業が行われる時が、粉塵の量が増大することは言うまでもない。










サトウキビ畑のど真ん中で汽車を降りた。
線路とサトウキビしかないところ。















ゆっくりとバックして行った














どこまでもつづくサトウキビ畑










機関車から降ろされた場所は、まさにサトウキビ畑のど真ん中であった。
運搬軌道の本線はサトウキビ畑へのアクセスであり、更に畑の深部へと至るように軌框が用いられる。
軌框とは軌条と枕木が一体化したもので、必要に応じて軌道を敷設、撤去するものだ。
サトウキビは本線軌道側から伐採、運搬される。
それにつれて伐採現場と軌道には距離が生じるため、
軌框を用いて畑の中へと臨時の線路を延長してゆくという手法である。
伐採が終われば軌框は1ピースごとに撤去し、台車に積み上げて次の現場へと運ばれる。
鉄道模型の線路を繋げたり外したりする様子を想像していただくと分かりやすいかも知れない。
ボクたちが降り立った所では、軌框を積んだ台車を水牛が牽いていた。










軌框の山













分岐はポイントを使わず、軌框を二重にしているところもあった。
サトウキビ満載。
この段差、機関車は通れないだろうなぁ…
収穫の終わった畑。
次の収穫期まで、この軌框は撤去されるのだろう。
番犬?

















牽引牛















プリムス製のDL
















作業員たちはみんな陽気だった












向こうに見えるはラ・カルロッタ製糖工場か?
線路配置がどうなっているのやら…
中継所のような場所に到着。
ここには別の列車も停まっていた。















Horizon

































しばらくすると、また収穫列車が来た。




















高らかにブラストを上げ、力行してきた。



















燃料のせいか、煙があまり出ないのが玉に瑕。















Green Grass














蒸気機関車と水牛が活躍する軌道










時間帯が悪かったのか、ここではあまり多くの汽車を見られなかったが、
だだっ広いサトウキビ畑をゆく姿を撮影することができた。
ただ、畑しかない平凡な風景に少々不満が残る。












伐採最前線の男たち。
汽車での帰り道。
なんと! 客扱いもしているのか?!
工場のはずれに到着。









陽が西に傾いた頃、工場に帰るという列車に添乗させてもらった。
バガースの粉塵を回避した訳ではないが、今回は機関車の前に連結された空台車に乗る。
機関車の顔を眺めながら揺られるのも悪くはない。
そうこうしているうちに工場のはずれに到着した。











線路は子供たちの遊び場になっていた。
入換作業の後、サトウキビ満載の貨車を押して工場へと向かう。



















小さなヤードと工場の間には、手前にいい感じの踏切があった。
汽車は既に踏切を通過して工場に進入していたが、機関士に頼んで戻ってもらう。
ガティアに伝えて通訳してもらったと思うが、こういう時は無我夢中だ。
サトウキビ畑での平凡な風景に飽きていたこともあり、何とか違った風情を撮りたかったのである。













町のメインストリートだろうか…
















煙があれば…









機関車に待っていてもらい、ぐっと引いて撮ってみた。
汽車に動きが感じられないので今イチだが、これで平凡畑のうっぷんが少し晴れたようだ。

こうしてネグロス島初日の撮影は終わった。
僅かな時間ではあったが、まあそれなりに手応えのある結果は得られたはずである。

撮影を終え、町のメイン通りを走っている時、ガティアが
「ハラヘッタ~ タベル~?」
と言い出したため、大衆レストランのような店に立ち寄った。
ここで初日の打ち上げである。
ヨーロッパテイストのビール、サンミゲルが最高に旨かった。










レストランで







(^^♪










【使用機材】


ペンタックスMX


ペンタックスME-Super










トップに戻る



海外の鉄道 に戻る



ネグロス島 トップに戻る



次のページへ

inserted by FC2 system